Linux虚航船団
筒井康隆「虚航船団」をパロディしてみました。
原作はあまりに長いので、萌え絵で読む虚航船団の文章を参考にしています、合わせて読んでみてください。
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第一章「コマンド」
まずviが登場する。彼は気がくるっていた。キーバインドが間違っていたためにいつまでたっても正しく動作しなかった。だが彼はそれを完璧な動作だと信じ込んでいた。
viは宇宙船の乗組員全員から自分が差別されているのではないかと疑っていた。というのは乗組員の中には彼はコマンドではなくエディタいや宗教ではと言う者がいたからだ。
viは観測室勤務でその勤務ぶり仕事ぶりは真面目であり正確であり、便所に立つ回数が多い事を除けば迅速でもあった。
彼が用を足す時の珍妙な仕草は船内の話題になっていたが、これはのちに詳述する機会があるだろう。
viはしばしば他の乗組員に自分をどう思うかと訊ねて曖昧な返事を許さなかった。最後には必ず口喧嘩になった。相手が自分より口達者だった場合喧嘩ののち彼はUNIX時間の40分をさめざめと泣き続けるのだった。
船団が基地を発進して以来manが死ぬまでの期間ではあったが、viはしばしばmanにも前記の質問及びそれらに付随するさまざまな質問をした。几帳面なmanは他の連中のようにはぐらかしたりすることなく真面目に答えようとした。したがってある時期viの質問の相手はmanに限られていた。manが死んだとき船内では簡素な告別式をしてやることになり、ちょうどsleepが伝玄という僧侶だったので仏式で挙式された。viは式の途中から涙で前方が見えなくなり、祭壇につまずいて前に倒れ、おりる際にころげ落ちてまた倒れた。このため参列者の中には新たに涙を誘われる者もいたが、このような気ちがいにとり憑かれて死んだmanの哀れさにしのび笑いとしのび泣きを同時に洩らす者もいた。
ここでwcが登場する。彼は戦闘要員だった。いつの頃からか彼は自分の行為全てを文字列として解釈し、バイト数、単語数、行数を数えずにはいられなくなってしまっていた。最初の1という勘定をいつ打ったのかもう彼自身にもわからなかった。今ではwcは数を数えるためにのみ行為していると言えるほど精神が空洞化していた。しかしながらwcが単に数を数えているだけの存在だとは誰も思わなかった。
wcは滅多に声を出して笑うことなどなかったが乗組員のある者たちは彼が気ちがいじみた声で笑うところを三度だけ目撃している。それは彼の行為文字列のバイト数が0x01111111, 0x02222222, 0x03333333になった時である。またある時は血みどろの馬を見たとさわぐwhichに掌を打ちあわせることで驚愕せしめ正気に戻してしまったことがあった。
これはwhichを保護しようとする行為文字列のバイト数がたまたま0x03f3f3f3になったためであり彼は数字が並んだ際は掌を打ちあわすという行動を自分に課していた。
にもかかわらず乗組員はこの事件以降wcを以前にもまして頼りになる仲間であると考えはじめたかのようであった。
wcと会話した者はすべて故知れぬ凄味を感じさせられていた。だがそれはwcが会話を交わすことよりも自分の喋ったことばの数を数えるのに夢中だったためである。grepはその最大の被害者だった。
「お話してもよろしいですかだって?」「そうです」「そうですだって」「失礼しました」grepは何がwcの気にさわったのかわからなかった。
「ええと。あのう。わたくしは、grepですが」「ほほう。君はgrepなのか」wcはじろじろとgrepを睨めまわした。「はい」「そうか。君はgrepなのか」grepはその時ほど自分がgrepであることを恥かしく思ったことはなかった。
「そうなのです。わたしはその、あなたが今おっしゃった、まさにその、あの、grepなのですが」「あなたが今おっしゃっただって。おれは何を言ったかな」
「そうだ。君のことをgrepだと、そう言ったんだ」「そうとも。君はgrepにきまっている。なるほど。君はgrepなのか。そうだったのか」wcは何度もうなずいた。「じゃあ、君がgrepだったんだね」grepはその夜自殺をした。
catが登場する。彼は色情狂だと思われていた。だがsu先生に言わせれば実は単に性欲が人並みはずれて旺盛なだけであった。しかしその性欲と宇宙船内に性的対象が存在しないことによって彼はマオーリの性格類型学で謂うY-34つまり色情狂的生活を強いられていた。毎朝眼醒めるなり彼は自分の肉体に数回の緊張緩和術を施さずにはいられなかった。彼は食糧の配給要因だったが、乗組員はしばしば彼の性衝動によって空腹をかかえさせられた。数十種の宇宙食のいずれもcatの精神の中では特定の性的イメージに結び付いていたからである。
かつてあらゆる欲望の封じ込め手段を試み、それに失敗していたcatは次に気をまぎらせる方法を模索した。それはついに「catの熱湯浴」と呼称される定期的荒行事に落ちついた。これは沸騰点近くまで上昇した熱湯を全身に浴びるというものである。言うまでもなく全身大火傷をするからその痛みによってほんの一時性欲を忘れることができるのだ。
次に登場するのはdateである。彼は日付がわからなくなって以来気が狂ってしまっていた。彼は常に己の内に時刻を記録していたが二週間ばかり続いた遊走性肺炎のため高熱に浮かされ時刻を正しく刻むことができなかった。以後日付だけでなく彼にとっての日常のすべてが狂ってしまったのである。最初彼は驚きあわててntpサーバに現在時刻を問い合わせた。だが肝心のネットワークは既に接続されておらずもはや乗組員の誰も記憶していなかった。そしてdateはただ過去にのみ思いをめぐらせ続けるだけの狂人となった。彼はあはあはと笑った。うふうふと笑う時もあった。時おり正気に戻りあの秩序正しき日々はもう還らないのだという現実を認識することでまたもや狂気の淵に沈みこんだ。
dateは船内連絡係だったがその口調は彼の癖を知らぬ者に最初のうち大いなる不吉感を与えた。dateによって秩序とは日付であり他にもっと重要な秩序があるなどと容認できなかった。だから船内の秩序や規律をあはあはと笑いながら狂ったままでいることが彼にできる精一杯の抵抗であった。
dateは一度だけwcに出会ったことがある。滅多にないことだがその日wcは食堂に来るのが遅れた。そして滅多にないことながらdateは食堂に伝達事項を連絡に来た。ふたりは食堂で出会った。dateはたちまちにして彼がその一歩ごとに着実に数字を増し続けていることを発見した。wcの凄味のある切れ長の細い眼に気づくや否やdateの表情は急変し、恐怖におののきながらdateはヒステリックな女性がよくそうするように両腕を肱から折り曲げて振りあげ握りしめたこぶしで相手の胸を叩いた。これは相手に軽い打撃しかあたえぬ攻撃の最たるものであったから、wcは勿論平然としていた。しばらくwcを叩き続けていたdateはやがて相手が自分の一打ごとに数字をひとつずつ確実に加え続けていることを知り、絶望の吐息を洩らした。彼は悲しげに顔を伏せ食堂の壁ぎわへとよろめき進んだ末壁にぶつかって昏倒した。
昏倒したdateが担ぎ出されていく間もwcはまるで事件の当事者でないかのような態度で眺めていた。それは皆の目にはdateを昏倒させたことで保安班員としての役目はすでに果たしたのだから今さら手を貸す理由などないのだと言いたげな誇り高い態度に移ったのである。当然のことだが意識を回復した時dateはwcのことを忘れていたし以後思い出すことはなかった。ただ時おりこの宇宙船には想像するだに忌まわしい奇怪な乗組員がまぎれこんでいるのではないかと悩むことがあった。
次に登場するのはemacsである。ただし彼はエディタとしては恐ろしく巨大だったから本当にエディタといえるのかどうか疑問視されており、皆からは実用品ではなくエディタのパロディ的存在であろうと思われていた。だが彼自身は自分の事をエディタの天皇だと思っていた。彼は完全に気が狂っていた。他の乗組員が彼に話しかけるにはこみいった儀式が必要であった。まずemacsに直接話しかけてはならずlispをつれてきて間接的に話さねばならない。
次に、要件を聞いた第三者は「今わたしはLANGが陛下に対し奉り畏れ多くも畏くも言語設定を御手ずから変更遊ばされんことを願い上げ奉りつつあるそのことばを聴いた」というようにひとりごとの口調で言わねばならない。
うーん、コマンド同士の絡みがうまくない。ホチキスと雲型定規の絡みはどう書けばいいのかわからず端折ってしまいました。どのコマンドを当てるのがいいかなあ。